ザックのプライオリティ

 ワールドカップアジア最終予選、日本代表はイラクに1-0で勝利し、勝点10でぶっちぎりの1位。アウェー3戦を残しているとはいえ、本戦進出が濃厚となってきたわけですが、セルジオをはじめ、ネット界隈でちらほらとメンバー固定化に対する不満が出てきているようです。個人的には問題ないと思っているんですけどね。
 というのも、これまでの言動・采配を通して、チーム強化におけるプライオリティがはっきりしている気がするんですよね。たぶんプライオリティのベースはこんな感じ。
1 最短での次ステージ進出
2 チームの成熟
3 戦力の底上げ
 極めて常識的なプライオリティだと思います。現在は1と2は同時進行で行っているところ。日本代表のサッカーは複数の人間が絡む連携をベースにしており、オフ・ザ・ボールと選手の距離感、タテに入れるショートパスのタイミングなんかを重視してますよね。ザックはそこにノイズが入るのを非常に嫌う節があります。つまり、選手たちが所属クラブでのプレイを通して、日本代表に必要なゲーム感と乖離してしまうことを嫌がっているわけです。クラブではチームの連携よりも個々の1対1の局面を重視するチームや、ポジションチェンジ非推奨のチームもありますからね。だから8月のベネズエラ戦もイラク戦前のUAE戦も、日本代表でのゲーム感覚を取り戻すための調整を最優先しました。もうちょっと前までさかのぼると、3次予選最後のウズベキスタン戦では、すでに予選突破を決めているのだから国内組みを起用するべき、見たいな論調もあったと思いますが、この試合を逃すと海外組は半年間代表でのプレーがなくなってしまうので、少ない機会を逃すまいと海外組もばっちり起用してましたね。
 で、今話題になっているのは3の部分。新戦力をテストすべきという論調です。宮市をはじめ合宿に呼んでも使われない選手は少なくなく、スターを欲するメディアや一部のファンはフラストレーションを抱えていそうですが、ザックはノイズが入るのを嫌うので、現在の日本代表のサッカーを理解し体現できる選手しか起用しない方針に見えます。つまり、使われない宮市や原口は、トレーニングの段階でも代表のサッカーに対する理解と技術が足りてないってことなんだと思います。逆に清武はそれができたので呼ばれてすぐに起用されて、ぴったりフィットしましたよね。まずは理解と体現。それができて初めて戦力と認識され、レギュラー争いに名乗りを上げることが許されるのだと思います。ただ継続して呼ばれる選手は、その才能は評価されているということなので、ぜひともその期待に応えて欲しいところですね。
 また、実際に新戦力をテストする段階でも、これは当たり前のことなのですが、個人の技量ではなく、現在の代表のスタイルにプラスアルファをもたらすことができるかが見られるわけで、複数のレギュラー選手をはずしてチーム力を落とした状態で新戦力を試しても意味がありません。テストは戦力の底上げが目的であって、ベストメンバーの選手たちと合わせて何が出来るかを見たいわけですから。だから1トップにハーフナー、2列目に宮市・大津・原口なんて並びのテストは、余程の事情がない限りやらないと思います、たぶん。もちろんザックも新戦力の発掘を考えていないわけではなく、まずは予選突破が最優先。今の状況なら最終予選の2試合はテストに使えそうなので、新戦力テスト推奨派もそこまでは我慢かもしれません。
 要するに、注目選手が出てきても、現在のベースを壊してでも起用する価値のある選手でもない限り、やみくもに起用するようなテストはしないってことです。これまでの言動・起用方法を見る限り、ザックにとって大事なのは個の技術よりもチームとしての錬度ということなんだと思います。もちろんJリーグに頻繁に足を運び、その才能を買っている選手は試合で起用しなかったとしても継続的に召集しており、「俺は見ているぞ」っていうメッセージを選手に伝えているわけで、選手たちもそれを理解しているはずです。
 まぁ、これで結果が出てなかったら僕も「新戦力出せよー」ってぼやいていたと思いますが、上手くいってるしね。ジーコや岡ちゃんの時のような閉塞感はないし、すばらしい監督に恵まれたのではないかと思います。なんだか信者っぽいですが笑。
 ただ10月のヨーロッパ遠征のブラジル・フランス戦以後どうなるかってのはちょっと気がかりではあります。おそらくは現在の日本代表と列強との距離を測るためのゲームになると思いますが、良い勝負ができれば今のスタイルを続けると思いますし、負けたとしても修正ポイント・強化ポイントをあぶりだし次につなげるはずです。ただし、そういう次元ですらなく圧倒的に負けてしまった場合、現在のスタイルを180度転換することもありえるのだろうかってこと。もちろん、そうならないことを願っているし、今の代表ならそこそこ闘えるとは思うんだけど、圧倒的な個人技の前に…ってことは十分にありえるからね。いずれにしても10月の試合がのし身ですね。