永井恐るべし

 ついに始まったオリンピック。日本代表は初戦のスペイン戦を勝利で飾るまさかのアップセットで、一躍今大会の注目チームに躍り出ました。
 スペイン戦の勝利の要因はいくつかあると思いますが、何より守備が良かったですよね。いろいろなところで書かれていますが、前プレで行く時としっかりブロックを作る時とメリハリが利いていて、チーム全員の意思が統一されているように見えました。さらにOAで入った吉田と徳永の安定感といったらもう。もちろん前線から精力的に守備に走り回った永井や東、自陣の深い位置までカバーした清武らの運動量も素晴らしかった。見ていて「後半絶対ガス欠するぞ」と思ったもん。チーム全員で最後まで走りぬいた運動量と集中力は素晴らしいの一言。追加点がしっかり取れてれば言うことなしだったけど、そこはご愛嬌ですね。
 一方のスペインは、世界最強であるが故に自分たちのアイデンティティから逃れられなかったのかなぁと思いました。正直なところ、パス回しが上手いチームではなかったですよね。それでも執拗に短いパスを回してポゼッションを保とうとする。特に後ろの方。日本の守備が安定していたのもあると思うけど、PA内に危険なパスが入ることはほとんどなかったし。あれならサイドを個人技でゴリゴリされた方が嫌だなぁと見ておりました。あくまで世界最強はシャビやイニエスタ、ピケやプジョルがいるスペインであって、U-23のチームじゃないんですね。それだけ彼らの存在は大きかった。彼らがいるが故のパスサッカー。それをこのチーム、というかスペインは誤解してしまったのかも。もちろん育成年代からフル代表まで同じ哲学でチームを作ることも大事だと思いますが、この大会での結果を求めるならば別のやり方もあったのかなぁと思いました。まぁ、日本をなめてたのかスカウティングは甘そうだったし、フル代表の“世界最強”という神輿に胡坐をかいているチームだったのも間違いないとは思いますが。
 でモロッコ戦ですよ。中2日という厳しい日程の中で、スペインに勝利したファンタスティックなチームがどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、世界中のサッカーファンが注目していたと思うんです、たぶん。まぁ、グダグダでしたねw いや、スペイン戦に引き続き守備は良かったと思います。チーム全員の守備意識が徹底されており、素晴らしい安定感をもたらしていると思います。崩壊していたトゥーロンが懐かしいw。
 ところが攻撃は相変わらずイマイチでした。スペイン戦では効いていたカウンターも、この試合ではさすがに警戒されており、DFからの一発ロングや中盤からもレンジの長いスルーパスが多く見られましたが、まったくチャンスを作れず。じゃあボールを回せるかというと、前線の選手たちの距離感が悪く、リズム良くボールが回るシーンはほとんどなし。個人的に気になったのは逆サイドにボールがあるときのSHの位置取り。ワイドに張りっぱなしなんですよね。だから1トップがボールサイドに流れちゃうと中央に味方がいないという。そこにボランチが出てくるなら良いけど、ボランチは最終ラインに近いところに鎮座。いや、ポジションを崩さないからこそ守備が安定するって考え方もあると思いますが、点を取るための工夫をもうちょっとして欲しいですよ。あいかわらず前線のコンビネーションもないし。「このままではスペイン戦はまぐれかよ」と全世界に思われるかなぁ、なんて思いながら見ていたら永井ですよ。眠い目をこすりつつネガティブ思考に陥ってしまった精神を一瞬でチャラにしてしまった圧倒的スピードによるゴール。なんだかいろいろ考えていたのがバカみたい。どれだけ内容がぐだぐだであっても永井がいればオールオッケーってな具合ですよ。
 モロッコ戦勝利時の個人的な心境は、昨年のペトロビッチレッズが勝点を得た時の心境に似ています。「勝点を得たけど、だから何なの」みたいな。未来の見えない絶望感の中で得た勝点に何か意味があるの? 今日は勝点得たけど本当に残留できるの? っていう感じ。決してU-23日本代表チームを非難しているわけではないですよ。予選突破が決まりメダルも見えてきたことを喜ぶ一方で、内容の向上が見られないチームへの不安と不満、でも永井がいれば何とかなっちゃいそうな期待感。ものすごく複雑な心境なんです。
 何が言いたいかというと、永井の圧倒的なスピードにはワクワク感を覚えずにはいられないってことです。世界中のサッカーファンが今や永井の虜です。1試合でも多く、大舞台での永井のプレーが見れるように、ぜひともU-23日本代表には勝ち進んでいただきたい。