レストラン「浦和レッズ」

 レストラン「浦和レッズ」は、味こそ微妙なものの地元民に愛されるお店として大きく賑わっていた。そんなお店の社長に就任したのが犬飼である。パッとしないレストランを大きくするため、オーナー森GMとの二人三脚で経営改革に着手。より大きなハコに転居すると同時に、オフトを新シェフに迎え、“タイトル”という料理を持ち込むことで「浦和レッズ」ブームに火を点ける。さらに、オフトの料理に発展性がないことが分かるとあっさりと解雇。地元出身の有名人ブッフバルトが新シェフに就任し、リーグ戦、天皇杯と“タイトル”の幅が広がり、目の前の“勝利”の味に利用客は熱狂。売上を大幅に伸ばし、文字通り日本一のレストランの座を掴みかけたはずだった。
 ところが犬飼が超巨大レストラン「JFA」に引き抜かれたことをきっかけにチームの崩壊が始まる。犬飼に続き、家庭の事情でブッフバルトが帰国。新シェフにオジェックを迎えるも料理のクオリティが保てず解雇。副料理長からエンゲルスを昇格させるも、もはや“勝利”と“タイトル”の料理は見る影もなくなり、売上こそ維持していたものの、利用客からの不満が溜まり始める。
 そこで犬飼の後任、藤口社長が行ったのが新しい料理“モダンサッカー”と“未来”の導入だ。フィンケを新シェフに迎え、自家栽培の食材を使った新しい味は、多くの客に好感を持って迎えられた、はずだった。程なくして利用客の間で意見の対立が起こる。新しい味はブッフバルトの料理には届かないものの、いずれ新しい“勝利”“タイトル”として生まれ変わることを予感させる味であり、その過程も含めて楽しもう・見守ろうという層がいる一方で、今すぐに“勝利”タイトル“を食べたい人々にとってフィンケの味は物足りなかったのだ。より声が大きいのは後者だった。
 そしてついに目に見えて売上が落ち始める。藤口はその責任を取って辞任。後任として橋本が新社長に就任するもその流れは止まらず、フィンケを放逐。ブッフバルトの時と同様、地元出身のペトロビッチを新シェフに迎えることを決断する。しかしここで新たな問題が起こる。橋本もオーナーである柱谷GMも、この新シェフがどんな料理が得意なのかまったく把握していなかったのだ。
 社長とオーナーはレストラン「浦和レッズ」の味を守るためにペトロビッチを迎えたことを公言するが、ペトロビッチが持ち込んだのは“モダンサッカー”でも“未来”でもなく、ましてや“勝利”でも“タイトル”でもない、遠く離れた異国の伝統料理だった。これに対しフィンケの味が好きだった利用客の多くが拒否反応を示す。新メニューは誰もが知っている料理だったが、ペトロビッチの料理には何の味わいもなく、形を真似ただけのものだったことがすぐに判明したのだ。新潟から取り寄せた期待の食材“マルシオ”をまったく活かせず、フィンケ時代から使っている自家栽培の食材は、1品目を除いて使い捨て状態。シェフの交代も時間の問題かと思われた。ところが、これに意を唱えたのが利用客の中で最も声の大きい、“勝利”と“タイトル”を誰よりも望んでいたグループである。フィンケの味を認めなかった利用客を中心に構成されると思われるこのグループは、地元出身のペトロビッチを長い目で見守り続けることを宣言したといわれている。
 声の大きいグループがペトロビッチ支持を表明したこともあり、今のところシェフ交代に向けた目立った動きはない。しかし、“モダン”と“未来”の味を知ってしまったグループにとって、今の料理は我慢のならないものであり、火種がくすぶっているのも事実。もちろん、フィンケの料理もペトロビッチの料理も大嫌いで今すぐ“勝利”“タイトル”が食べたい層がいるのも事実。そして利用客の誰もが“勝利”と“タイトル”という極上の料理を欲しているのもまた事実。今なお、トップクラスの売上を維持できているのは、レストラン「浦和レッズ」ファンの分母が大きいからに他ならない。意見の相違はあれど、利用客はみんな浦和レッズが好きなのだ。“勝利”“タイトル”という極上の料理を堪能するためにも、社長・オーナーの手腕が問われている。


全然期待してないけどね!