降格へのカウントダウン

 G大阪戦は0-1の敗戦。あまりに内容に乏しい敗戦に降格を覚悟した。これでリーグ戦は4試合連続の無得点。どうやって点を取るのかが見えない。もう何から手をつければいいのかわからないレベル、ただのかわいそうなチームに成り下がった。
 問題はチームとしての意思統一がまったく図れていないこと。どうやって点を取るのか、どうやってパスを繫ぐのか、ボールを持ったら何をするのか、味方がボールを持ったら自分は何をするべきなのか。選手たちはその答えを持っていないように見えるし、答えを出そうとしているようにも見えない。監督の未熟な戦術と指導の上で崩壊したチームは、その改善を図るべく動いた選手たち自身の手によってさらに深みに嵌ったという印象だ。
 ペトロビッチの問題点は明白。ペトロビッチはピッチ上に選手を満遍なく配置させ、ポジショニングバランスの維持を最優先にしている。攻撃は個人技主体で行い、対面する相手DFを突破してチャンスを作る。またポジショニングバランスを維持しておけば、ボールロスト時に対面する選手がノーマークになるのを防ぐことができる。理屈は間違っていないように見えるが、問題はペトロビッチがこの理論を実践に落とし込む術を持っていなかったこと。数的優位を作り単騎突破を封じる相手守備陣を崩すためには、コチラも人数をかけて守備に穴を開ける動きが必要になる。自分のポジションを捨て、上下左右に動いてスペースを作る、そのスペースに飛び出す、味方を追い越して相手DFの意識を引き付ける、などなど。ボールホルダーへのサポートと言ってもよい。ところがペトロビッチはそうした動きを指導する術を持たず、逆にそうした動きをしようとする選手たちにポジショニングバランスを維持することを強要(ハーフタイム・試合後コメントなど)する。そのため攻撃は停滞。チームで、連携で崩すことができなくなる。逆にドリブルを得意とする原口がブレイクするが所詮は個人突破。2人目までは何とかなっても3人目も抜くのはまず不可能。1、2人目を突破と同時にほかの選手が動き出すことでゴール前で守備陣を混乱させることが出来れば良いがその意識が乏しい。これに限らず個人技を活かした得点シーンを演出するために必要な動きが、組み立ての段階からチームとして構築できていないことも問題。攻→守の切り替え時の混乱防止を目的に、CHとSBのオーバーラップを著しく制限しており、アタッカーがボールを持っても孤立するシーンが多く、攻撃を停滞させる要因となっている。
 一方、守備に目を向けると、基本は自分のポジションでマッチアップする相手選手のマークが求められる。これはサッカーの基本。ところがペトロビッチはこの基本のみで最後まで対応することを求める。もちろん、これで守りきるためには、相手チームもレッズ同様、ポジショニングバランスを維持しながら攻撃をしてくることが前提になる。前線が自由に動き始めるとマーキングで精一杯な状況が生まれ、DFラインにギャップが生まれるという明確な弱点がある。また、開幕当初は守備陣のオーバーラップを制限していながらも、両サイドアタッカーが最前線でサイドに開き、OHも1トップに近い位置を取る関係上、前後分断の状況が生まれ中盤がスカスカ。CH2人だけでは攻→守の切り替え時に対応できず、カウンターの餌食になる問題もあった。
 ここまでがペトロビッチが掲げるサッカーの基本スタイル。開幕当初は「正確なロングフィードが出せるボランチが足りない」だとか言われたりもしたようだが、選手が合う・合わないのレベルではなく、戦術に致命的な問題を抱えているのが実態である。まぁ、ルーニーとかC・ロナウドとかメッシとか、世界選抜級を集めれば問題なく優勝できると思うけどもw 
 ということでプレシーズンマッチの時点で不安を持っていたサポーターは結構多かったはず。案の定、開幕から負けが込むわけです。特に上記に挙げた中盤のスペース過多による前後分断が酷かったわけですが、ここでペトロビッチは、サイドアタッカーのスタートポジションをやや下げつつ、DFラインを上げることでコンパクトな布陣を模索する。これにより前後分断はひとまず改善されたが、ポジション固定の基本ラインは変わらないので、それ以外の問題の改善は図れず。一方でDFラインを上げるものの、ポジション固定を最優先し、中盤の連動したプレスでボールを奪うという発想がないためプレスは単発。上手いチームを相手にするとプレスを簡単にいなされ、高いDFラインの裏が狙われやすい状況が新たに生まれる。ここで踏ん張ったのがCBの2人。強いフィジカルを活かしハイボールを跳ね返しつつ、ギャップを作ろうと動く相手FWに食い付き(釣り出され)ながらも、そこで潰し切ることで攻撃をストップ。原口の影に隠れがちだが、シーズン序盤〜中盤のMVPはスピラノビッチと永田だと思う。で、尻拭いをさせられるスピラノビッチと監督が試合中にDFラインの位置を巡って怒鳴りあうなどのシーンが散見さるようになり、今や「ラインを上げろぉぉ!!」というペトロビッチのオーバーアクションは名物になっている気がしないでもない。
 ということで、ペトロ的改善策は守備陣の頑張りに依存しつつ「負けないけど勝てない」という状況しか生み出せなかった。そこで「このままではダメだ」と選手たちが動き出す。選手間でミーティングを行いペトロビッチに報告。恐らく選手たちのやりたいことがペトロビッチに承認されたのだろう。迎えた6月22日の福岡戦、選手たちが躍動し3-0の完勝。ポジションにこだわらず選手が流動的に動き、いわゆる“3人目の動き”でいつもは守備専の鈴木が先制点を決めるなど攻撃に明らかな変化が生まれる。さらに続く名古屋、G大阪と上位チームに対しドローに持ち込み、浮上の期待が高まる中、なぜかこのタイミングでペトロビッチの矯正が入る。再びポジション固定戦術に戻り、変化をつけるキーになる山田直輝にサイドで窮屈なプレーを強要したり交代させたりと、仕事してますアピールをしたいのか、ペトロイズムを全面に押し出した采配に打って出る。
 もちろんペトロビッチもこのままではまずいと思ったのか、シーズン中盤になる頃から新たな変化を加えることに。1つはスピードとモビリティに優れるアタッカーを終盤に投入するオープンアタック。カウンターの打ち合いに持ち込むことで負け試合を何度か引き分けに持ち込むことに成功している。もう1つが後方からの徹底したロングボール戦術。シンプルな放り込みです。でも今の浦和の前線にハイボールに強い選手はいない。点はおろかチャンスにつながる可能性すら薄い方法で、ペトロ的には失点のリスクを排すために取った戦術と思われる。ロングボールを放り込むことで相手DFラインを下げる。この時、1トップと両サイドアタッカーに加え、OHとCHの1人も高い位置を取り前線をフォロー。これはマイボールにするためではなく、敵陣の深い位置でDFにボールを持たせ、そこにプレスをかけることを目的としている。前線に人数をかける分、相手の中盤も引かざるをえず、自陣でのプレー時間を減らすことができると。同時に後方でのパスミスによるショートカウンターのリスクもなくなる。点を取るためではなく、失点しないための放り込み戦術を採用した。このやり方では得点どころかシュートまでいけばラッキー。おそらく得点は後半のオープンアタックで何とかなるだろうと考え、前半はとにかく失点しないことを最優先に考えたのではないかと。この頃はベンチにCBをいれず、アタッカーがズラリと並んでいたことを考えても、オープンアタックをオプションとして考えていたのは間違いないはず。ただし、前線からプレスをかけるといっても基本的に単発だし、根本的な部分での守備の危うさはそのまま。なので普通に崩されるシーンも多く、DFが最後で踏ん張る状況は変わらず。ところが、このやり方で川崎に2勝しちゃった。なまじ成功体験ができてしまったので、ペトロビッチは一度は承認した選手たちが志向するサッカーではなく、自分のスタイルに固執することに。まぁ、選手のやりたいサッカーを指導する術を持たないことが最大の要因だと思われますが。
 勝点を稼げるようになったとはいえ、個人技依存の攻撃とギャップができやすくCBに依存する守備の課題は変わらず。それどころが8月後半頃から暑さと連戦の疲労からなのか、低調なサッカーに対するモチベーションの低下なのか、守備陣の踏ん張りが効かなくなり、特にCBの覇気が目に見えて低下しはじめる。これによりもともと危うさを見せていた守備が崩壊。個人技主体の攻撃もシーズン後半になると相手守備に対応され攻め手を欠き、PA内にすら入り込めない状況に。さらに降格圏が迫り失点が怖いのかペトロビッチはオープンアタックを封印。ここに来て選手たちは再び連動した攻撃の模索を始めたようであるが、そうしたトレーニングを1年近くしていない上に、動きを散々矯正されてきたことで、フィンケ時代に培った連動した動きや運動量を伴うサポートが消失。さらに、ポジション間の意見の調整が図れていないようで、むやみにラインを上げたくないDF陣に対し、マイボール時に味方のサポートにすぐに入れるようにコンパクトな布陣を保ちたい中盤、ただでさえ苦手なポストプレイを味方との距離が遠い状態で強要される1トップなど、優先事項が整理されておらず、自ポジションの役割を最優先に考え、各ポジションの選手たちに注文をつけるところで止まってしまっている。ペトロビッチのやり方ではダメだと選手たちが自ら動いた結果、ポジション毎の主義主張が整理されず身動きが取れない状態になってしまったと。これが最近の低調な試合の原因。動き出しをしようにも、どう動けば効果的なのかがわからない。山田直輝、柏木あたりは明確なイメージを持っているだろうけど、周囲がついてこれないという状況なのではないだろうか。
 去年までのスタイルを身体が覚えていればまだ可能性はあった。でもペトロビッチはそれを潰した。選手間の意思統一が図れていない、このちぐはぐな状況を考えれば、恐らくペトロビッチのスタイルに戻した方が、まだチームとしてのまとまりは出ると思う。それにしたって開幕当初からの攻撃の停滞感と不安定な守備という弱点はそのままだし、これまでその弱点を補う方策を提示できなかったことを考えれば、ペトロビッチにこれ以上の手腕は期待できない。つまり、いずれにしても勝点は計算できない。進めど闇、戻れど闇。それでも時間は過ぎて行くし、次の試合もやってくる。まさに降格へのカウントダウン。この状況を打破するためには何かを変えるしかない。監督の解任か、ポジションの役割を整理できる臨時コーチの招聘か、恐らくできることはこの二つ。J2降格という最悪な事態を回避するために必要なのは、選手やサポーターの覚悟ではなく、フロント陣の覚悟なんじゃないかな。