浦和のサッカーはセコいのか?

 第12節の対清水戦。1-0と無事に勝利を収めたわけですが、清水ゴトビ監督のコメントが話題になっているようです。

「浦和のようなプレーをして勝つよりも、清水のような戦い方をして負ける方がいいと思っている。我々のスタイルそのものがポジティブな要素だと思う。ファンというのはホームで11人で守ってカウンターを狙うよりも、我々のような攻撃的なサッカーを見たいと思う。10人になっても我々はコンビネーションでチャンスを作れていたし、ビジョンも戦術も正しいものだと思う。今日は結果が出なかったが、次に出せればいい」
http://www.jsgoal.jp/news/jsgoal/00137751.html

 負け惜しみに聞こえなくもないですが、要するに「引いて守るとかセコいことしてんじゃねぇよ」って話のようです。もちろん選手がこのコメントを目にすることを想定した上で、自分たちのサッカーをポジティブに捉えて欲しいというメッセージも込められているとは思いますが、それなら敢えて浦和を腐す必要はないんじゃ…。
 で、実際のところ“浦和は11人で守ってカウンター=セコいサッカー”をしているのかってところです。まぁゴトビ監督は“セコい”なんて一言も言ってはいないんですが、そんなニュアンスを含んでいる気もするので。
 今期の浦和のシステムはご存知3-6-1ですが、守備時には両ワイドが下がって5バックになります。この5バックとボランチ2枚で守備ブロックを作るのが基本となり、OH2枚は状況に応じたポジションを取ることが多いようです。その辺は両ワイドとボランチ2枚、相手の攻撃枚数との兼ね合いですね。で、基本はリトリートなので「引いて守る」という意味では確かにその通りです。逆にマイボールになると、1トップに加えてOH2枚、両ワイド2枚が最前線に位置取り5トップ気味になります。ボランチの1枚が最終ラインに降りてボールを回すので実質4-1-5のようなフォーメーションですね。システム的には3バックなのですが、実際には最終ラインが3人の時はほとんどないです。
 このサッカーで肝になるのは攻守の切り替えの速さと運動量。特に両ワイドは攻守が切り替わるたびに、それこそピッチの縦幅を常に全力で上下動しなくてはいけなので大変です。1トップ+OH2枚も、守備時に最前線にいる両ワイドが最終ラインに戻る時間を稼がなくてはいけないので、ボールを奪われるとすぐにボールホルダーにアプローチし、相手のカウンターを防ぎにいきます。そこでボールを奪い取ることを目的としているわけではないですが、けっこう走ってますからこの人たちも大変。一方、攻撃はフォメのギャップを生かしたスペースメイキングが基本で、マークを引き付け剥がしてボールを動かし、空いたスペースを選手が入れ替わりながら攻略していくというもの。だから前3人と両ワイドはもちろん、ボランチだって攻撃に参加するし、CBの選手もドリブルで前に運んだりSBの役割を持ってオーバーラップを仕掛けることも少なくありません。つまり、ピッチ上の全員が常に守備と攻撃の意識を持っており、守備に人数をかけるのも確かだけど、攻撃にも人数をかけているわけで。決してゴトビの言うような11人で引いて守るだけのチームではないのです。ただ、エスパルスのようなハイプレス+ショートカウンター(がベースでいいんだよね?)とは間逆の戦術で、チームの重心が後ろにあるのは間違いないと思います。カウンターの得点が多いのも確かだと思いますが、厳密にはカウンターが武器なのではなく「タテに速い攻め=スペースを生かした攻め」が武器なんです。
 これはJリーグの特徴だと思いますが、「ただ勝てるチーム」ではなく、内容と結果を求める高尚なチームが多いと思うんですよ。皮肉ではないですよ、念のため。みんながバルセロナを目指しているというか。ポゼッションを高めつつ、チーム全員が守備意識をもって前からボールを奪う的な。そんなのもあってかJは前からボールを取りにくるチームが多い。現在12節ですが、広島・大宮・横浜以外はそういうチームだったと思います。なもんで、浦和の後方の4+1でボールを回しつつ5トップ気味という中盤省略フォーメーションを前にすると、前プレを志向するチームは前プレと5トップのマークを両立しなくてはならなくなり、守備時に前後分断してしまうことが多い。今の浦和はその前後分断によって生じたスペースを有効活用するのが大好きなんです。前プレをはずしてフリーでボランチが抜け出す or OHが下りてきてタテパスを受けてフリック。これにより攻撃をタテに加速させる。もしくは永田から両ワイドへのロングパスですね。中盤省略気味とはいえ単純な放り込み一辺倒というわけではないです。代表や昨年までのG大阪のように、細かいパスと人の動きで相手の守備ブロックを崩すのではなく、システムでスペースを作り、長短のパスでそのスペースを突くことで相手守備を攻略する。だからカウンターに見えるシーンも、ボールを奪った直後ではなく、後方でボールを回しながら5トップ気味に変化して相手の前後分断を促した結果、相手陣地にスペースがある状況+タテに速い攻めがカウンターっぽく見えるシーンも少なくないと思います。もちろんホントのカウンターも多いです。これは攻守の切り替えの速さと幅広く動け、かつ技術の確かな柏木・マルシオの賜物ですね。逆に大宮戦や横浜戦のように相手にコンパクトな守備ブロックを素早く作られ、スペースを消されると攻め手を失ってしまいます。そういう相手に対し勝点を取れるかが課題ですよね。
 ということで今の浦和は重心は後ろにあるかもしれないけど、決してセコいサッカーではないと思うのです。何となくフリーの選手にボールを回して、何となく攻めて、何となく守るようなチームもある中で、よほど一本筋の通ったサッカーをしているのではないでしょうか。そもそもサッカーっていろんなスタイルがあって良いと思うんですよ。選手や監督の個性がピッチに出るからサッカーは面白いのであって。そういうスタイルを非難するのはちょっとどうかと。ちなみに僕が一番好きなのはハイプレス+ショートカウンター。浦和とは間逆ですが、それはそれ、これはこれ、なんですよねぇ。